吾輩はトラネコなり。
コタツは好きだが、日本の蒸し暑さにはそれほど強くないのだ。
エアコンは命綱。
なのに、最近は停電のウワサをよく耳にするのだ。
なぜだ。なぜなのだ。飼い主はどうしたらいいのだ。
誰か、誰か、教えてはくれまいか…。

ニュースや気象情報を見ながら「“数十年に一度”という言葉、毎年聞くなぁ…」と思っている人も多いのでは…?こうした大きな自然災害の後には停電が発生しやすいといわれています。さて、停電に対して私たちはどう備えるべきなのか、地域や研究機関などで活躍するキーマンに伺います。

今回は、「災害や停電に強い住宅」を芝浦工業大学建築学部長 秋元孝之教授に聞きました。

芝浦工業大学 建築学部長 秋元孝之教授
芝浦工業大学 建築学部長 秋元孝之教授

日本で停電リスクが高くなっている理由

近年、大型台風や豪雨などの自然災害が増えている印象がありますが、何が原因になっているのでしょうか。

これまでは数十年に一度程度しか起こらなかった「激甚災害」が、近年は明らかに増えています。主な要因として挙げられるのは地球温暖化の進行で、これが海面の上昇や異常気象の多発をもたらし、自然災害として表れているのです。

地球温暖化は、二酸化炭素などの温室効果ガスが原因になっていると言われています。人間や企業の活動によって二酸化炭素の排出量が増えると、温室効果ガスの濃度は高くなります。そうすると、地球は分厚い布団で包まれたような状態になり、気温も上昇してしまうのです。

地球温暖化については、世界中の国々が深刻な問題だと認識しています。気候変動に関する世界的な会議「COP26」でも、気温上昇を抑えるため、二酸化炭素排出量の削減目標などを発表しています。今後も、こうした取り組みはますます強まっていくでしょう。

厚い布団にくるまれると、汗をいっぱいかくことがある。これが大雨なんだな。 なるほどなるほど。激甚化につながる水害が増えているということか。

大型台風や豪雨に見舞われた場合、日本ではインフラの中でも特に電力が被害を受けやすいようです。

停電の要因はひとつではありませんが、2019年の台風15号では、千葉市で大規模かつ長期間の停電が起こりました。想定以上の暴風によって電柱が倒れ、広い範囲で電線が遮断してしまったのです。水道やガスは管が地中にあるため比較的被害を受けにくいのですが、電気はまだ電柱によって送電している地域がほとんど。これが、暴風時に停電が起きる一因になっています。

電柱や電線は、街の景観を美しくするためには地上にないほうがいいと言われており、最近では地中に埋めて「無電柱化」しようという自治体も出てきました。無電柱化は暴風による停電の防止にもつながるので、ぜひ全国に広がってほしいですね。

しかし、今のところ無電柱化されているのは全国の電柱のうち15%程度に過ぎず、東京23区では約8%しかありません。これは、ヨーロッパやアジアの他の主要都市に比べてかなり低い数字。ロンドンやパリ、香港、シンガポールなどではすでに100%無電柱化されているので、日本は世界的に見てかなり遅れています。つまり、暴風による停電リスクも高いと言えるでしょう。行政は積極的に対策を進めてほしいと思います。

日本は、「停電しない」「停電してもすぐ復旧できる」と停電に強いと言われていますが、温暖化の影響やインフラの状況を見ると、これからはそうとは言い切れない時代になるのではないでしょうか。

ヨーロッパやアジアの主要都市では無電柱化が完了しているが、日本の無電柱化率はまだかなり低い。
ヨーロッパやアジアの主要都市では無電柱化が完了しているが、日本の無電柱化率はまだかなり低い。

え!日本はこんなに進んでいないのか…!
これは、個人で対策しとかないかんのではなかろうか…。

電力が止まれば健康被害や断水の可能性も

現状では、日本は他の主要都市に比べてかなり停電リスクが高そうですね。もし停電したら、住まいに関しては何が一番問題になるとお考えですか?

心配なこととして、まず挙げられるのがエアコンの停止です。建物の断熱性能にもよりますが、真夏や真冬に冷暖房が止まったら、室内の温熱環境を維持できなくなります。そうなれば、そこに住む人々にさまざまな健康被害が起こるだろうことは想像に難くありません。

2011年3月に起きた東日本大震災は、広範囲での停電も引き起こしました。この時、断熱性能の高い家は一定期間室温を維持できたそうです。しかし、古い家の多くは断熱性能が低く、停電してすぐに室温を保てなくなったと報告されています。

特に心配なのは高齢者です。高齢者は極端な暑さや寒さを感じにくいと言われており、夏場は自分で気づかないうちに熱中症になっていたという事例もあります。また、人間だけでなくペットも健康被害を受けるでしょう。例えば熱帯魚は、電気が止まって水槽内の環境を制御できなくなれば、死につながりかねません。

Q.自身・同居家族(ペット含)は、空調が使えない場合どのくらいで体調を崩す人が出る? (SA/n=1,000)

※出典 伊藤忠商事「在宅避難と長期・大規模停電の防災対策実態調査」(2020.2)
※出典 伊藤忠商事「在宅避難と長期・大規模停電の防災対策実態調査」(2020.2)

ネコもネコも!!!!!

人間だけでなくペットも危ないと。ほかにも、停電によって住宅内で起こりうる問題がありましたら教えてください。

照明のない生活になるほか、冷蔵庫が止まって食材の腐敗が始まります。熱源がIHしかない家庭では、調理ができなくなるでしょう。また、マンションによっては、3階以上の住戸へ水を送るための増圧給水ポンプが動かなくなることも考えられます。この場合、3階以上の住戸は停電に加えて断水にも見舞われてしまいます。

現在の住宅において、なくてはならないキーワードは「健康」「快適」「安全安心」の3つ。電力が停止すると、これらがすべて失われてしまうのです。

いま注目されている「レジリエンス住宅」とは

近年は、災害に強い家として「レジリエンス住宅」や「スマートハウス」などが注目を集めています。これはどういったものなのでしょうか。

レジリエンスとは、外部から受ける力や影響に対しる「しぶとさ、強靭さ、回復力」を意味する言葉です。ここから、災害には被害をできる限り小さくし、かつすばやく回復できるような住宅を「レジリエンス住宅」と呼んでいます。日本サステナブル建築協会では、私も委員の一人となって「レジリエンス住宅チェックリスト」を作りましたので、自宅のレジリエンスがどんな状態か、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

電力に関して言えば、太陽光発電システムと蓄電池の組み合わせによって、停電時にも一定の電力供給機能を発揮し続ける──。そんな住宅もレジリエンスが高いと言えるでしょう。

近年話題の「ZEH(ゼッチ)住宅」もレジリエンス住宅に当たります。これは、高い断熱性能や効率のよい設備で大幅な省エネを図りながら、太陽光などの再生可能エネルギーで自家発電し、年間のエネルギー消費量の収支をおおむねゼロ以下にするというものです。やはり停電時にも電気が使えるということで、注目を集めつつあります。

一方、スマートハウスとは、ITなどの最新技術を使って住宅内の設備をコントロールし、消費電力を最適化する家のこと。省エネにつながるため環境負荷が少ないと言われており、この中には自家発電設備を備えた住宅も含まれます。

お。難しくなってきたぞ。
つまり、災害時における「復旧するチカラ」ということか。

太陽光発電システムと蓄電池の組み合わせについて、もう少し詳しく教えてください。

太陽光発電は、太陽という自然エネルギーを活用して電力を作るものです。ただ、これで発電できるのは太陽が出ている昼間だけなので、昼間のうちに作った電力を蓄電池に溜めておいて、それを夜間に使うということになります。ですから、太陽光発電システムを導入するなら、蓄電池とセットで考える必要があります。

以前は、住宅で作った電力を電力会社が買い取る「FIT制度」が普及しつつありましたが、今は買い取り価格がかなり下がっています。そのため最近は、「自分の家で作った電力は自分の家で消費するのがよい」という考え方が主流になってきています。

「レジリエンス住宅チェックリスト」では、住宅の平常時の「免疫力」、災害発生時の「土壇場力」、災害後の「サバイバル力」の3つの観点から住まいのレジリエンス度を確認できる。
「レジリエンス住宅チェックリスト」では、
住宅の平常時の「免疫力」、災害発生時の「土壇場力」、災害後の「サバイバル力」の3つの観点から住まいのレジリエンス度を確認できる。

「土壇場力」に「サバイバル力」。
住み家を変える際に、これまでは出てこなかったワードだな…。

太陽光発電+蓄電池のコスパを考える

ただ、自宅に導入する、あるいはそうした設備を備えた新築を購入するとなると、費用の面が気になります。コストパフォーマンスはどうなのでしょうか。

確かに安い買い物ではありませんが、そこに費用をかけられるのならぜひ導入を考えていただきたいと思います。第一のメリットは、停電時に電力を供給してくれること。被災した時も、避難所で暮らすより在宅避難で過ごせたほうがストレスも少ないでしょう。こうした設備は、停電時にも「健康」「快適」「安全安心」を維持するための備えだと考えていただければと思います。

第二のメリットは普段から使えること。太陽光発電システムと蓄電池は、非常時しか使わないシェルターのようなものとは違い、日々の生活電力を作り出してくれるものです。作った電力を売らずに自家消費だけにとどめるとしても、一定の容量さえあればコスパは高いと言えるのではないでしょうか。

第三のメリットは、地球環境に優しいことです。再生可能エネルギー由来の電力ですから、火力発電などと違って二酸化炭素排出量の抑制、すなわち温暖化の防止に貢献できます。太陽光発電システムと蓄電池の導入は、これらのメリットも念頭に置いて検討する必要があると思います。

頭が整理されてきたぞ。
結局、住宅も「健康」「快適」「安全安心」が重要で、日常生活で使えれば「コスパも悪くない」というわけか。

これからの住宅は災害に対してどうあるべきか、お考えをお聞かせください。

想定できる範囲の災害に対しては、命の危険が過ぎ去った後、住人が自律的に在宅避難できる場所であるべきだと思います。在宅避難時にも過度な我慢をする必要がない、住む人に過度なストレスがかからない、そんな住宅がどんどん増えていくことを期待しています。

災害への備えは、無電柱化などの場合は行政の力が必要ですが、個人でできることもたくさんあります。例えば水や非常食の備蓄は各家庭でもできることですし、本学でも東日本大震災以降、建物各フロアの教室や会議室などに水と非常食を置いています。

その意味では、太陽光発電システムや家庭用蓄電池の導入も、個人でできる「備え」のひとつと言えます。停電対策の、引いては住宅のレジリエンス性能を高めるための選択肢の一つとして、皆さんに広く知っていただけたらと思います。

難しい言葉も、コスト面も、色々課題はあるが…
命を守り、在宅避難時のストレスが少ない家に住みたいぞーーー!!!

編集後記

めちゃくちゃ頭の整理が出来たぞ。
家づくりの基本は、家族やペットの「健康」「快適」「安全安心」で、停電している状況での在宅避難時にもその視点を忘れちゃいけないといことだな。
「普段から使える点も含めてコスパを考える」という点も、多くの専門家が共通して発言しているぞ。
防災対策を考える上で、この2点は立ち返るべき、重要なポイントだ―――――

秋元孝之 先生 PROFILE

芝浦工業大学 建築学部長 教授

1963年、東京都生まれ。1988年早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修了。カリフォルニア大学バークレー校環境計画研究所に留学。博士(工学)、一級建築士。専門分野は建築設備、特に空気調和設備および熱環境・空気環境。著書に「サステイナブルハウジング」(監修、東洋経済新報社)など。

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