吾輩はトラネコなり。
コタツは好きだが、日本の蒸し暑さにはそれほど強くないのだ。
エアコンは命綱。
なのに、最近は停電のウワサをよく耳にするのだ。
なぜだ。なぜなのだ。飼い主はどうしたらいいのだ。
誰か、誰か、教えてはくれまいか…。

ニュースや気象情報を見ながら「“数十年に一度”という言葉、毎年聞くなぁ…」と思っている人も多いのでは…?こうした大きな自然災害の後には停電が発生しやすいといわれています。さて、停電に対して私たちはどう備えるべきなのか、地域や研究機関などで活躍するキーマンに伺います。

今回は、日本人ならではの災害との向き合い方や、災害や停電に向けて育くむべき「チカラ」について、東京大学レジリエンス工学研究センターの古田教授に聞きました。

東京大学大学院工学系研究科レジリエンス工学研究センター 古田 一雄教授
東京大学大学院工学系研究科レジリエンス工学研究センター 古田 一雄教授

地震・火災対策に強い日本、世界に誇る「避難訓練」

災害大国・日本の「備え」の特徴を教えてください。

「地震」に対する備えは世界で一番だと思いますね。大きな災害が起きると法改正され、災害に強い耐震基準、建築基準といったハード面は非常に進んでいます。

ハード面は進んでいる、というのは安心します。ソフト面はどうですか。

何よりもすごいのは「避難訓練」です。学校や会社で1年に1回実施するなんて、世界でも珍しいことです。ハード面もそうですが、日本は「地震」「火災」には強いんです。避難訓練もこの2点を想定していることが多いですよね。

たしかに。
机の下に隠れたり、ハンカチを口にあてたり…避難訓練で学んだぞ。

たしかに「避難訓練」は当たり前になっています。

ただ、その「当たり前」がネックになることもあります。災害は、いつ襲ってくるか分かりません。近年は、水害や大型台風、大雪のような地震・火災以外の災害が、どの地域にくるのか、といった点も従来に比べて変わってきています。つまり、これまでの「当たり前」が通用しなくなってきているのです。阪神・淡路大震災の高速道路倒壊で「安全神話」が崩れたように、「想定外」というものはどんどん出てきます。災害だけではなく、世の中には「想定外」だらけです。これまでの経験値にばかり頼って「避難訓練をして終わり」、「防災リュックを買って終わり」では、想定外に対応出来なくなってしまいます。

なんと!避難訓練で学んだコトや、備えていることが「当たり前」になって逆に「想定外」に対応出来ない可能性が出てしまうということか。

想定外に弱い日本人、大切なのは「想像してみること」

日本は「想定外」に弱い、ということでしょうか。

日本人は「予防」が得意です。ただし、予防を万全にしているという安心感で、「想定外」の時にどうするか、といった想像力が働かなくなってしまう。「ビルは壊れないように造ってあるから、壊れません」で思考が停止してしまう。「壊れたらどうするのか」という発想がなくなってしまうというわけです。建築基準などのハード面と、「人がどう対応していくか」というソフト面の差が激しいというのが日本の「防災」の特徴だと思います。

ソフト面とハード面の格差を埋めていくには、何をすべきでしょうか

起きてしまった時どうするのか、避難訓練以外でも日頃から考えるクセをつけることが大切です。日本人は、自然災害に対してはとても忍耐強いんです。「想定外」を忍耐強さで乗り越えようとします。これは、悪いことは思っちゃいけない、口にしてはいけない、と考えてしまう「言霊信仰」が背景にあると思っています。「想定外」を考えたくない、考えないようにしてしまって、起こった時には耐えるしかなくなる。この悪循環を断ち切るには、とにかく「考えること」「想像すること」です。

日本人が「自然災害に対して忍耐強い」というのはよく分かります。

ただし、忍耐には多大なストレスがかかります。私は、災害が起きた時の復旧度(レジリエンスカーブ)を評価する研究を進めていますが、「レジリエンス」の考え方は臨床心理の分野でも使われています。災害や深刻な問題に直面した際には、それだけストレスの負荷がかかります。復旧復興にはハード面だけではなく、心理的な課題も大きいのです。

「災害に対して忍耐強い日本人」は誇るべきことではあるが、ストレスがない状態に早くなることの方が絶対にいいと思うぞ。

停電に強い日本で、停電が起こってしまったら…を考える

どこから考え、想像したらいいのか、分からない人も多いと思います。

ひとつは、「相互依存性」です。世の中は至るところでつながっているので、どこかで何かが起こると、そこだけで留まらず影響はどんどん拡大していきます。電気がいい例です。電力が長時間ストップすると、生命維持装置を使っている人が危機に陥ります。エアコンが使えなくて体調を崩す人も出てくる。エレベーターも水も使えないし、交通信号が消えて渋滞や事故が発生するかもしれません。ひとつの出来事が起こった時に、次は何が起こるかを想像していくことです。電気に関しては「停電に強い」という点もネックになっています。こんなに停電しない国はありません。しかも復旧がすこぶる早い。電力系統の信頼性が高く、ハード面を強化した「予防」に強い日本では、停電が起きた時のことを考えにくくなってしまっています。停電が日本より頻繁に起こる海外の国々では、起こってしまっても日本ほど慌てませんから。

停電に強い日本が「当たり前」になってしまうと、実際に停電が起こる「想定外」にはめっぽう弱いということだ!

家族で話し合っておくことも大切ですね。

まずは「自宅周辺がどのような土地であるのか」を知っておくことです。ハザードマップはもちろんですが、河川・下水道の整備状況、土壌の性質等を知っておくと、災害時のリスクが想像しやすいです。
突拍子もないことを考えてみることもおすすめです。お子さんがいらっしゃれば、「もし怪獣があそこに現れたらどうなる?」と一緒に考えてみたり、ご夫婦で「役所が全く機能しなくなったら」と想像してみる。「起こらないでしょ」で終わらせないことが大切です。避難訓練の延長のような視点だと、「想定内」の範囲になってしまって、リアルに考えることが出来なくなりがちです。

か、怪獣!家が潰れて、火を吹かれて火事に…電柱が倒れて電線も切れて…。
避難所は家が壊れた人でいっぱいに。潰れなかった家も停電になって…。

とことん考えて、想像して、何を準備すべきかを、また考えるということですね。

そうです。ただし、防災の備えは、日常でも使えるべきであると考えています。防災のため「だけ」というのは、結局いざという時に使い物にならないこともありますから。

最近、家庭用蓄電池も「防災対策」として問合せいただくことが増えているようです。

まずは日常使いが前提としてあって、災害時に使えるからだと思います。費用面に関しては「長年使って元をとっていく」という考え方になるのではないでしょうか。


  • レジリエンス
    外部から受ける力や影響に対しる「しぶとさ、強靭さ、回復力」を意味する。災害やその他困難に直面している際の、「適応する能力」「適応していく過程」「立ち直る力」という意味で使われる。

編集後記

2022年冬から春にかけては、「電力がヤバイ」といっぱい聞いた。
夏もどうなるか…停電の危機はもうすぐそこまで来ている気がするぞ。
想定外の停電となった場合、特に長期・大規模停電となったらテンパるのは確実。少しでもストレスの負荷を減らせるよう、日常に近い生活に戻れるようにしておきたいところ。
そう考えると、停電後に家中の家電が使える家庭用蓄電池は、日常の暮らしの中で活躍しつつ、非常時の電源としても暮らしを支えてくれる選択肢のひとつだな。

古田一雄 先生 PROFILE

東京大学大学院工学系研究科レジリエンス工学研究センター 教授

1958年、神奈川県生まれ。専門は認知システム工学、レジリエンス工学。1986年東京大学大学院 博士課程修了。著書に「レジリエンス工学入門: 「想定外」に備えるために」(日科技連出版社)など。

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